沖縄返還協定
(琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定)
昭和四十七年三月二十一日条約第二号
琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定をここに公布する。
琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定
日本国及びアメリカ合衆国は、
日本国総理大臣及びアメリカ合衆国大統領が、千九百六十九年十一月十九日、二十日及び二十一日に琉球諸島及び大東諸島(同年十一月二十一日に発表された総理大臣と大統領との間の共同声明にいう「沖縄」)の地位について検討し、これらの諸島の日本国への早期復帰を達成するための具体的な取極に関して日本国政府及びアメリカ合衆国政府が直ちに協議に入ることに合意したことに留意し、
両政府がこの協議を行ない、これらの諸島の日本国への復帰が前記の共同声明の基礎の上に行なわれることを再確認したことに留意し、
アメリカ合衆国が、琉球諸島及び大東諸島に関し千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第三条の規定に基づくすべての権利及び利益を日本国のために放棄し、これによつて同条に規定するすべての領域におけるアメリカ合衆国のすべての権利及び利益の放棄を完了することを希望することを考慮し、また、
日本国が琉球諸島及び大東諸島の領域及び住民に対する行政、立法及び司法上のすべての権力を行使するための完全な権能及び責任を引き受けることを望むことを考慮し、
よつて、次のとおり協定した。
第一条
1 アメリカ合衆国は、2に定義する琉球諸島及び大東諸島に関し、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第三条の規定に基づくすべての権利及び利益を、この協定の効力発生の日から日本国のために放棄する。日本国は、同日に、これらの諸島の領域及び住民に対する行政、立法及び司法上のすべての権力を行使するための完全な権能及び責任を引き受ける。
2 この協定の適用上、「琉球諸島及び大東諸島」とは、行政、立法及び司法上のすべての権力を行使する権利が日本国との平和条約第三条の規定に基づいてアメリカ合衆国に与えられたすべての領土及び領水のうち、そのような権利が千九百五十三年十二月二十四日及び千九百六十八年四月五日に日本国とアメリカ合衆国との間に署名された奄美群島に関する協定並びに南方諸島及びその他の諸島に関する協定に従つてすでに日本国に返還された部分を除いた部分をいう。
第二条
日本国とアメリカ合衆国との間に締結された条約及びその他の協定(千九百六十年一月十九日にワシントンで署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約及びこれに関連する取極並びに千九百五十三年四月二日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約を含むが、これらに限られない。)は、この協定の効力発生の日から琉球諸島及び大東諸島に適用されることが確認される。
第三条
1 日本国は、千九百六十年一月十九日にワシントンで署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約及びこれに関連する取極に従い、この協定の効力発生の日に、アメリカ合衆国に対し琉球諸島及び大東諸島における施設及び区域の使用を許す。
2 アメリカ合衆国が1の規定に従つてこの協定の効力発生の日に使用を許される施設及び区域につき、千九百六十年一月十九日に署名されたの規定を適用するにあたり、同条1の「それらが合衆国軍隊に提供された時の状態」とは、当該施設及び区域が合衆国軍隊によつて最初に使用されることとなつた時の状態をいい、また、同条2の「改良」には、この協定の効力発生の日前に加えられた改良を含むことが了解される。
第四条
1 日本国は、この協定の効力発生の日前に琉球諸島及び大東諸島におけるアメリカ合衆国の軍隊若しくは当局の存在、職務遂行若しくは行動又はこれらの諸島に影響を及ぼしたアメリカ合衆国の軍隊若しくは当局の存在、職務遂行若しくは行動から生じたアメリカ合衆国及びその国民並びにこれらの諸島の現地当局に対する日本国及びその国民のすべての請求権を放棄する。
2 もつとも、1の放棄には、琉球諸島及び大東諸島の合衆国による施政の期間中に適用されたアメリカ合衆国の法令又はこれらの諸島の現地法令により特に認められる日本国民の請求権の放棄を含まない。アメリカ合衆国政府は、日本国政府との協議のうえ定められる手続に従いこの協定の効力発生の日以後そのような請求権を取り扱いかつ解決するため、正当に権限を与えた職員を琉球諸島及び大東諸島に置くことを許される。
3 アメリカ合衆国政府は、琉球諸島及び大東諸島内の土地であつて合衆国の当局による使用中千九百五十年七月一日前に損害を受け、かつ、千九百六十一年六月三十日後この協定の効力発生の日前にその使用を解除されたものの所有者である日本国民に対し、土地の原状回復のための自発的支払を行なう。この支払は、千九百六十一年七月一日前に使用を解除された土地に対する損害で千九百五十年七月一日前に加えられたものに関する請求につき千九百六十七年の高等弁務官布令第六十号に基づいて行なつた支払に比し均衡を失しないように行なう。
4 日本国は、琉球諸島及び大東諸島の合衆国による施政の期間中に合衆国の当局若しくは現地当局の指令に基づいて若しくはその結果として行なわれ、又は当時の法令によつて許可されたすべての作為又は不作為の効力を承認し、合衆国国民又はこれらの諸島の居住者をこれらの作為又は不作為から生ずる民事又は刑事の責任に問ういかなる行動もとらないものとする。
第五条
1 日本国は、公の秩序又は善良の風俗に反しない限り、琉球諸島及び大東諸島におけるいずれかの裁判所がこの協定の効力発生の日前にした民事の最終的裁判が有効であることを承認し、かつ、その効力を完全に存続させる。
2 日本国は、訴訟当事者の実質的な権利及び地位をいかなる意味においても害することなく、この協定の効力発生の日に琉球諸島及び大東諸島におけるいずれかの裁判所に係属している民事事件について裁判権を引き継ぎ、かつ、引き続き裁判及び執行をする。
3 日本国は、被告人又は被疑者の実質的な権利をいかなる意味においても害することなく、この協定の効力発生の日に琉球諸島及び大東諸島におけるいずれかの裁判所に係属しており又は同日前に手続が開始されていたとしたならば係属していたであろう刑事事件につき、裁判権を引き継ぐものとし、引き続き手続を行ない又は開始することができる。
4 日本国は、琉球諸島及び大東諸島におけるいずれかの裁判所がした刑事の最終的裁判を引き続き執行することができる。
第六条
1 琉球電力公社、琉球水道公社及び琉球開発金融公社の財産は、この協定の効力発生の日に日本国政府に移転し、また、これらの公社の権利及び義務は、同政府が同日に日本国の法令に即して引き継ぐ。
2 その他のすべてのアメリカ合衆国政府の財産で、この協定の効力発生の日に琉球諸島及び大東諸島に存在し、かつ、第三条の規定に従つて同日に提供される施設及び区域の外にあるものは、同日に日本国政府に移転する。ただし、この協定の効力発生の日前に関係土地所有者に返還される土地の上にある財産及びアメリカ合衆国政府が日本国政府の同意を得て同日以後においても引き続き所有する財産は、この限りでない。
3 アメリカ合衆国政府が琉球諸島及び大東諸島において埋め立てた土地並びに同政府がこれらの諸島において取得したその他の埋立地であつて、同政府がこの協定の効力発生の日に保有しているものは、同日に日本国政府の財産となる。
4 アメリカ合衆国は、1及び2の規定に従つて日本国政府に移転する財産のある土地に対してこの協定の効力発生の日前に加えられたいかなる変更についても、日本国又は日本国民に補償する義務を負わない。
第七条
日本国政府は、合衆国の資産が前条の規定に従つて日本国政府に移転されること、アメリカ合衆国政府が琉球諸島及び大東諸島の日本国への返還を千九百六十九年十一月二十一日の共同声明第八項にいう日本国政府の政策に背馳(ち)しないよう実施すること、アメリカ合衆国政府が復帰後に雇用の分野等において余分の費用を負担することとなること等を考慮し、この協定の効力発生の日から五年の期間にわたり、合衆国ドルでアメリカ合衆国政府に対し総額三億二千万合衆国ドル(三二〇、〇〇〇、〇〇〇合衆国ドル)を支払う。日本国政府は、この額のうち、一億合衆国ドル(一〇〇、〇〇〇、〇〇〇合衆国ドル)をこの協定の効力発生の日の後一週間以内に支払い、また、残額を四回の均等年賦でこの協定が効力を生ずる年の後の各年の六月に支払う。
第八条
日本国政府は、アメリカ合衆国政府が、両政府の間に締結される取極に従い、この協定の効力発生の日から五年の期間にわたり、沖縄島におけるヴォイス・オヴ・アメリカ中継局の運営を継続することに同意する。両政府は、この協定の効力発生の日から二年後に沖縄島におけるヴォイス・オヴ・アメリカの将来の運営について協議に入る。
第九条
この協定は、批准されなければならず、批准書は、東京で交換されるものとする。この協定は、批准書の交換の日の後二箇月で効力を生ずる。
以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けて、この協定に署名した。
(右条約の英文)〔省略〕
千九百七十一年六月十七日に東京及びワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
日本国のために
愛知揆一
アメリカ合衆国のために
ウィリアム・P・ロジャーズ
内閣総理大臣 佐藤栄作
法務大臣 前尾繁三郎
外務大臣 福田赳夫
大蔵大臣 水田三喜男
文部大臣 高見三郎
厚生大臣 齋藤昇
農林大臣 赤城宗徳
通商産業大臣 田中角栄
運輸大臣 丹羽喬四郎
郵政大臣 廣瀬正雄
労働大臣 塚原俊郎
建設大臣 西村英一
自治大臣 渡海元三郎